読書感想文:現役生より書籍を寄贈していただきました【103期】

隅田です。
先日、とある現役生より書籍を4冊寄贈していただきました。

社長

家にある本を皆のために持ってきてくれたよ。知識を共有したいという気持ちがうれしいね。あと、ビットゼミという場が、多くの方々の学びの場として認識されていることもうれしいね。

↓↓それがコチラ↓↓

これらの本、意図していたのか意図していなかったのか、お互いがお互いの内容を押し広げてくれるような選書となっていました。

ということで、今回は簡単な書籍紹介の記事です。読んだ気になってもらうもよし、実際に手に取ってもらうもよし。コラムとして読んでいただけますと幸いです。

スピーチの教科書

書籍名の通り、聴衆の心をつかむスピーチのハウツーがまとめられた本です。ナナメ読みをしたところスッキリとまとまっている本のようで、面接時にも役立てられそうな印象を受けました。

「なぜスティーブ・ジョブズのスピーチが人々の心を打つのか」という導入では、アリストテレースの『弁論術』が援用されており、「論理性(ロゴス)」「情熱性(パトス)」「信頼性(エートス)」の三要素が良いスピーチの条件であるといいます。

一般的には「原稿を見ないで話すことや効果的にスライドや小道具を使うことで聴衆の心を惹き付けられる」と考えられがちですが、著者は、綿密に練られた原稿がスピーチ成功の鍵を握っていると主張しています。

本書は、そのアイディアを練り、心から聴衆の役に立ちたいと思って話す内容を整理し、原稿を作り上げていく過程にこそ、魂がこもっていくという考えの元、スピーチ原稿の作り方から本番での振る舞いについて体系的にまとめてあります。

スピーチは苦手なので、一読してみようかな…。ひょっとして、毎朝隅田のスピーチを聞いている103期生が機転を利かせて持ってきてくれたのかな…。そんな思いが脳裏をよぎります。笑

sumida

聴衆の心を動かす修辞学(レトリック)は2000年以上経っても変わらないのですね。古典哲学は面白い本が多いので、是非、アリストテレースの原典にも当たってもらいたいです。

思考の整理学

初版が1986年に発行され、2022年現在までの約30年、何の数字かは分かりませんが累計で245万部を突破しているので読まれた方も多いのではないでしょうか。

かくいう私も学生時代に一読しており、良いレポートを、良い論文を書くにあたって役に立った本でした。これを敷衍すると、先に引用した『スピーチの教科書』における「原稿を作り上げる」段階で必要なことが書かれてあるともいえます。

少し横道に逸れた、個人的な話になってしまいますが、梅棹忠夫先生の『知的生産の技術』と合わせて読むとより効果を発揮するはずです。知的生産(アウトプット)で大切なのは、いつでもアイディアを引き出せる状態を保つことだからです。

アイディアを引き出せる状態とは、言い換えると、整理できている状態であるといえます。知識とは、詰め込むものではなく「自分にとっての文脈で情報を組み替えられるように吸収するもの」なので、整理する方法を知っていなければ「良質な知識」は掌をすり抜けていきます。

  • 思考を整理する上で大切なのは、寝かせることだ
  • やらなければならないことは、ひとつの物事に集中していると中々見えてこない
  • 必要な知識以外は忘れてしまうべきだ
  • 深く考えず、気軽に書き始めた方がいい

…などなど

「リスキリング(=学び直し)」が流行している世の中、これから勉強し直そうと考えている人にまず薦めたい1冊です。

あなたの知らない脳

紹介されるまでは読んだことのない本でしたが、眠ることを忘れるほど夢中になってしまいました(※良くない読書の仕方です)

要約すると、ひとえに「意識による意思決定は錯覚である」という主張を軸に論述が展開されていました。今となっては常識として扱われていますが、人間の主体的営為(=思考や行動)において、自由意志の及ぶ範囲は自覚しているよりも少ないというものです。それが数多くの証拠や科学的根拠とともに例示されていく本でした。

男性が着用したTシャツを使って「女性はそのTシャツのわきの下に鼻をうずめ、好みの体臭を選ぶ」という有名な実験、錯視画像、ひよこの雌雄鑑別士の話、人が恋に落ちてから冷めるまでの期間は最大3年で、あとは下り坂に入ることなど、日常のどこかで聞いたことのあるような、知的好奇心が刺激される例が収録されており、心理学や脳科学の専門でなくとも面白く読めると思います。1

意識は、喩えるなら「氷山の一角」という言葉がよく当てはまります。意識は、その水面下の無意識レベルにて、進化的淘汰で培われた膨大で複雑な体系によって支えられています。

人間が行動を起こすとき、一般的には自分の意思決定に従って動いていると思いがちですが、実際のところ、意識というものは脳の活動の大部分に関与していないというのです。それなのに、水面上に浮かんでいる氷の部分だけが見えている、つまり、自分自身が何でも判断・指示していると思い込んでいます。

水面下にある無意識は言語化も形式化もできません。仮にできてしまうとすれば、それは「意識」として捕まえられているからです。第六感というものの存在を否定するわけではないのですが、自分の感覚や感情ほどあてにならないものはありません。脳は、過去のデータの積み重ねから、外界のデータを「決めつけの判断プロセス」に従って処理しているといえます。

我々の脳内世界は、誤解を恐れずに言えば、一種のディストピアとよく似ています。我々の脳に潜む無意識とは、あらかじめ方向付けられており、通常、それに対して不思議に思うことがありません。

先に紹介した『思考の整理学』でも「やるべきことは、ひとつの物事に集中していると中々見えてこない」とありました。ひょっとすると、この「意識の慣性」が知的生産を阻害する原因の一つとなっているのかもしれません。

努力を重ねて取り入れた知識も「寝かせる勇気」や「捨てる勇気」を持たなければ、つまり、何かしらの方法で断ち切る勇気を持たなければ、何も役立てられていないのと同義なのですね。

この「モノの見え方や感じ方、そして考え方が脳によってあらかじめ方向づけられている」という著者の主張には、ドーキンスの『利己的な遺伝子』ド・イッチャーの『言語が違えば世界も違って見えるわけ』の内容に近いものがあります。この本を読んだ後で合わせて読むと面白いはずです。

入門!論理学

この本も、学生時代に読んだものでした。懐かしいという気持ちでいます。この論理学の本は、日常生活には直接的に役立てられない本なので、読み手を選ぶような気がしています。

しかし、役立てられたとすれば良書です。先に紹介した「説得力のあるスピーチ原稿」の作成に一助を呈しますし「日常に息を潜める非論理的な物事」に対して批判的になれるのではないか…と思います。プロパガンダやポピュリズムに対する冷静な目を養えるといいますか。直接的な言及は避けますが、現代では身につけておきたい能力ですよね。

この2冊は特におもしろかったです

さて、いきなり余談なのですが、筆者は、学生時代、野矢茂樹先生のファンでした。特に文章が美しいのです。言語化しにくいことを言語化している人…といった感じでしょうか。そんなフィルタリングがかかっていることもあって、この本の紹介には少しばかり熱が入ってしまいそうです。

論理学とは、ごく簡単に言うと「思考の法則やその形式を明らかにする学問」のことをいいます。

言語や思考を明らかに(しようと)する学問において困難なのは「調査対象と調査方法が同じ」点にあります。要するに、言葉を言葉で解明しなければならないのですが、現代の論理学界は、数学で用いられる(演算)記号を用いて、論理の仕組みを紐解こうとがんばっています。

プラトン(以前)の論理学がアリストテレースによって体系化され、スコラ学を経て、後のカント(先験的論理学)やヘーゲル(弁証法論理学)に受け継がれ、記号論理学の礎を築いた多数の哲学者(数学者)が活躍した現代論理学へとバトンが手渡されていきます。2

本書は、そんな歴史ある論理学が新書サイズの入門書として執筆されたものです。特徴的なのは、ヨコ書きではなくタテ書きの本ということで、可能な限り(演算)記号を使わないで論理学にメスを入れている点でしょう。例文も「すべての男はバカである」のような、コミカルなものが使用されています。

感覚的な言い方で申し訳ないのですが、記号を使わずに記号論理学を紹介することで、論理学を「裸に」することができたような気がします。他の本を見てみれば感じていただけると思うのですが、各ページを埋める記号の放列はあたかも論理学が鎧をまとって私たちの前に現れたかのようです。その鎧をはぎとり、さらに着ていたものを脱がせ、意外と柔らかいその論理学の素肌にふれることができたのではないか、そんなふうに思うのです。

前掲書, はじめに(pp.ⅱ-ⅲ)より引用

ただ、入門書とはいえ挫折する可能性も高いような気がしています。いくら「入門!」と書かれていても、読書に慣れていない人であれば少し難しさを感じるかもしれません(特に後半部分)

論理学に興味をお持ちであれば、まずは野矢茂樹先生の著書『論理トレーニング101題』の方を読むとよいと思います。学術寄りではない本ですが、内容はよく似ています。それを土台にして、こちらの新書を読んでもらうのが良いかもしれませんね。

まとめ

読書というのは、難しい本を読むことを言うのではありません。私は「自分が面白いと思う本を読むことをいう」のだと考えています。以下に、愛読書の一つからの引用を付しておきます。

The best books, he perceived, are those that tell you what you know already.

George Orwell, “1984”, p200, Signet Classics, New York.

どんな本を読むにせよ、背伸びは禁物です。良い本というのは、すでに自分の知っていることが書かれてあるものをいいます。読めない本を無理して読むよりも、内容が頭に入ってくる本を読んでいくことが大切で、その積み重ねが「過去に挫折した本」を読めるようにするものだと考えています。

積み重ねては内容を忘れ、積み重ねては価値観に変化をもたらし、それが別の道を拓く…このサイクルが「教養」や「知識」として身についていき、人間としての深みをもたらすのではないでしょうか。

それはそうと、読書、おもしろいものですよ。忙しい現代人にとっては習慣形成が難しいかもしれませんが、まずは1ページ…、否、好きな本を持ち歩くだけという低い目標設定から始めてみてはいかがでしょう。

その一歩は、あなたが今までに見たことのない世界へと誘ってくれるはずです。

  1. 中でも面白かったのが「顔の黄金比率」の話でした。研究倫理に反していそうですが、男性が特に魅力的だと思う女性のプロポーションについても黄金比率があり、ウェストとヒップが0.67から0.8の間にあるという結論を出した実験があるようです。しかも、この比率の範囲にある女性は男性に魅力的だと判断されるだけでなく、健康でユーモラスで、知的だとも思われるようです。そんなことはないと思いますが…。
  2. ライプニッツ、ホッブズ、パース、フレーゲ、フッサール、ラッセル、ウィトゲンシュタイン(前期)などがいます。拾いきれませんが、主要人物は挙げられたはず。
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